むかし、ある霧 のふかい朝でした。
王子はみんながちょっといなくなったひまに、玻璃 でたたんだ自分のお室 から、ひょいっと芝生 へ飛 びおりました。
そして蜂雀 のついた青い大きな帽子 を急 いでかぶって、どんどん向 こうへかけ出しました。
「王子さま。王子さま。どちらにいらっしゃいますか。はて、王子さま」
と、年よりのけらいが、室 の中であっちを向 いたりこっちを向 いたりして叫 んでいるようすでした。
王子は霧 の中で、はあはあ笑 って立ちどまり、ちょっとそっちを向 きましたが、またすぐ向 き直 って音をたてないように剣 のさやをにぎりながら、どんどんどんどん大臣 の家の方へかけました。
芝生 の草はみな朝の霧 をいっぱいに吸 って、青く、つめたく見えました。
大臣 の家のくるみの木が、霧 の中から不意 に黒く大きくあらわれました。
その木の下で、一人 の子供 の影 が、霧 の向 こうのお日様 をじっとながめて立っていました。
王子は声をかけました。
「おおい。お早う。遊 びに来たよ」
その小さな影 はびっくりしたように動いて、王子の方へ走って来ました。それは王子と同じ年の大臣 の子でした。
大臣 の子はよろこんで顔をまっかにして、
「王子さま、お早うございます」と申 しました。
王子が口早にききました。
「お前さっきからここにいたのかい。何してたの」
大臣 の子が答えました。
「お日さまを見ておりました。お日さまは霧 がかからないと、まぶしくて見られません」
「うん。お日様は霧 がかかると、銀 の鏡 のようだね」
「はい、また、大きな蛋白石 の盤 のようでございます」
「うん。そうだね。僕 はあんな大きな蛋白石 があるよ。けれどもあんなに光りはしないよ。僕 はこんど、もっといいのをさがしに行くんだ。お前もいっしょに行かないか」
大臣 の子はすこしもじもじしました。
王子はまたすぐ大臣 の子にたずねました。
「ね、おい。僕 のもってるルビーの壺 やなんかより、もっといい宝石 は、どっちへ行ったらあるだろうね」
大臣 の子が申 しました。
「虹 の脚 もとにルビーの絵 の具皿 があるそうです」
王子が口早に言 いました。
「おい、取 りに行こうか。行こう」
「今すぐでございますか」
「うん。しかし、ルビーよりは金剛石 の方がいいよ。僕 黄色な金剛石 のいいのを持ってるよ。そして今度 はもっといいのを取 って来るんだよ。ね、金剛石 はどこにあるだろうね」
大臣 の子が首 をまげて少し考えてから申 しました。
「金剛石 は山の頂上 にあるでしょう」
王子はうなずきました。
「うん。そうだろうね。さがしに行こうか。ね。行こうか」
「王さまに申 し上げなくてもようございますか」と大臣 の子が目をパチパチさせて心配 そうに申 しました。
その時うしろの霧 の中から、
「王子さま、王子さま、どこにいらっしゃいますか。王子さま」
と、年とったけらいの声が聞こえて参 りました。
王子は大臣 の子の手をぐいぐいひっぱりながら、小声で急 いで言 いました。
「さ、行こう。さ、おいで、早く。追 いつかれるから」
大臣 の子は決心 したように剣 をつるした帯革 を堅 くしめ直 しながらうなずきました。
そして二人は霧 の中を風よりも早く森の方へ走って行きました。
*
二人はどんどん野原の霧 の中を走って行きました。ずうっとうしろの方で、けらいたちの声がまたかすかに聞こえました。
王子ははあはあ笑 いながら、
「さあ、も少し走ってこう。もう誰 も追 いつきやしないよ」
大臣 の子は小さな樺 の木の下を通るとき、その大きな青い帽子 を落 としました。そして、あわててひろってまた一生けん命 に走りました。
みんなの声ももう聞こえませんでした。そして野原はだんだんのぼりになってきました。
二人はやっと馳 けるのをやめて、いきをせかせかしながら、草をばたりばたりと踏 んで行きました。
いつか霧 がすうっとうすくなって、お日さまの光が黄金色 に透 ってきました。やがて風が霧 をふっと払 いましたので、露 はきらきら光り、きつねのしっぽのような茶色の草穂 は一面 波 を立てました。
ふと気がつきますと遠くの白樺 の木のこちらから、目もさめるような虹 が空高く光ってたっていました。白樺 のみきは燃 えるばかりにまっかです。
「そら虹 だ。早く行ってルビーの皿 を取ろう。早くおいでよ」
二人はまた走り出しました。けれどもその樺 の木に近づけば近づくほど美しい虹 はだんだん向 こうへ逃 げるのでした。そして二人が白樺 の木の前まで来たときは、虹 はもうどこへ行ったか見えませんでした。
「ここから虹 は立ったんだね。ルビーのお皿 が落 ちてないか知らん」
二人は足でけむりのような茶色の草穂 をかきわけて見ましたが、ルビーの絵 の具皿 はそこに落 ちていませんでした。
「ね、虹 は向 こうへ逃 げるときルビーの皿 もひきずって行ったんだね」
「そうだろうと思います」
「虹 はいったいどこへ行ったろうね」
「さあ」
「あ、あすこにいる。あすこにいる。あんな遠くにいるんだよ」
大臣 の子はそっちを見ました。まっ黒な森の向 こう側 から、虹 は空高く大きく夢 の橋 をかけていたのでした。
「森の向 こうなんだね。行ってみよう」
「また逃 げるでしょう」
「行ってみようよ。ね。行こう」
二人 はまた歩き出しました。そしてもう柏 の森まで来ました。
森の中はまっくらで気味 が悪いようでした。それでも王子は、ずんずんはいって行きました。小藪 のそばを通るとき、さるとりいばらが緑色 のたくさんのかぎを出して、王子の着物 をつかんで引き留 めようとしました。はなそうとしてもなかなかはなれませんでした。
王子はめんどうくさくなったので剣 をぬいていきなり小藪 をばらんと切ってしまいました。
そして二人はどこまでもどこまでも、むくむくの苔 やひかげのかずらをふんで森の奥 の方へはいって行きました。
森の木は重 なり合ってうす暗 いのでしたが、そのほかにどうも空まで暗 くなるらしいのでした。
それは、森の中に青くさし込 んでいた一本の日光の棒 が、ふっと消 えてそこらがぼんやりかすんできたのでもわかりました。
また霧 が出たのです。林の中はまもなくぼんやり白くなってしまいました。もう来た方がどっちかもわからなくなってしまったのです。
王子はためいきをつきました。
大臣 の子もしきりにあたりを見ましたが、霧 がそこらいっぱいに流 れ、すぐ眼 の前の木だけがぼんやりかすんで見えるだけです。二人は困 ってしまって腕 を組んで立ちました。
すると小さなきれいな声で、誰 か歌いだしたものがあります。
霧 がトントンはね踊 りました。
霧 がポシャポシャ降 ってきました。そしてしばらくしんとしました。
「誰 だろう。ね。誰 だろう。あんなことうたってるのは。二、三人のようだよ」
二人 はまわりをきょろきょろ見ましたが、どこにも誰 もいませんでした。
声はだんだん高くなりました。それはじょうずな芝笛 のように聞こえるのでした。
霧 がツイツイツイツイ降 ってきて、あちこちの木からポタリッポタリッと雫 の音がきこえてきました。
きりはこあめにかわり、ポッシャンポッシャン降 ってきました。大臣 の子は途方 に暮 れたように目をまんまるにしていました。
「誰 だろう。今のは。雨を降 らせたんだね」
大臣 の子はぼんやり答えました。
「ええ、王子さま。あなたのきものは草の実 でいっぱいですよ」そして王子の黒いびろうどの上着 から、緑色 のぬすびとはぎの実 を一ひらずつとりました。
王子がにわかに叫 びました。
「誰 だ、今歌ったものは、ここへ出ろ」
するとおどろいたことは、王子たちの青い大きな帽子 に飾 ってあった二羽 の青びかりの蜂雀 が、ブルルルブルッと飛 んで、二人 の前に降 りました。そして声をそろえて言 いました。
「はい。何かご用でございますか」
「今の歌はお前たちか。なぜこんなに雨をふらせたのだ」
蜂雀 はじょうずな芝笛 のように叫 びました。
「それは王子さま。私どもの大事 のご主人 さま。私どもは空をながめて歌っただけでございます。そらをながめておりますと、きりがあめにかわるかどうかよくわかったのでございます」
「そしてお前らはどうして歌ったり飛 んだりしたのだ」
「はい。ここからは私どもの歌ったり飛 んだりできる所 になっているのでございます。ご案内 いたしましょう」
雨はポッシャンポッシャン降 っています。蜂雀 はそう言 いながら、向 こうの方へ飛 び出しました。せなかや胸 に鋼鉄 のはり金がはいっているせいか飛 びようがなんだか少し変 でした。
王子たちはそのあとをついて行きました。
*
にわかにあたりがあかるくなりました。
今までポシャポシャやっていた雨が急 に大粒 になってざあざあと降 ってきたのです。
はちすずめが水の中の青い魚のように、なめらかにぬれて光りながら、二人 の頭の上をせわしく飛 びめぐって、
と歌いました。するとあたりの調子 がなんだか急 に変 なぐあいになりました。雨があられに変 わってパラパラパラパラやってきたのです。
そして二人 はまわりを森にかこまれたきれいな草の丘 の頂上 に立っていました。
ところが二人は全 くおどろいてしまいました。あられと思ったのはみんなダイアモンドやトパァスやサファイアだったのです。おお、その雨がどんなにきらびやかなまぶしいものだったでしょう。
雨の向 こうにはお日さまが、うすい緑色 のくまを取 って、まっ白に光っていましたが、そのこちらで宝石 の雨はあらゆる小さな虹 をあげました。金剛石 がはげしくぶっつかり合っては青い燐光 を起 しました。
その宝石 の雨は、草に落 ちてカチンカチンと鳴りました。それは鳴るはずだったのです。りんどうの花は刻 まれた天河石 と、打 ち劈 かれた天河石 で組み上がり、その葉 はなめらかな硅孔雀石 でできていました。黄色な草穂 はかがやく猫睛石 、いちめんのうめばちそうの花びらはかすかな虹 を含 む乳色 の蛋白石 、とうやくの葉 は碧玉 、そのつぼみは紫水晶 の美しいさきを持 っていました。そしてそれらの中でいちばん立派 なのは小さな野 ばらの木でした。野 ばらの枝 は茶色の琥珀 や紫 がかった霰石 でみがきあげられ、その実 はまっかなルビーでした。
もしその丘 をつくる黒土をたずねるならば、それは緑青 か瑠璃 であったにちがいありません。二人 はあきれてぼんやりと光の雨に打 たれて立ちました。
はちすずめがたびたび宝石 に打たれて落 ちそうになりながら、やはりせわしくせわしく飛 びめぐって、
と歌いましたので雨の音はひとしお高くなり、そこらはまたひとしきりかがやきわたりました。
それから、はちすずめは、だんだんゆるやかに飛 んで、
と歌いますと、雨がぴたりとやみました。おしまいの二つぶばかりのダイアモンドがそのみがかれた土耳古玉 のそらからきらきらっと光って落 ちました。
「ね、このりんどうの花はお父さんの所 の一等 のコップよりも美 しいんだね。トパァスがいっぱいに盛 ってあるよ」
「ええ立派 です」
「うん。僕 、このトパァスをはんけちへいっぱい持 ってこうか。けれど、トパァスよりはダイアモンドの方がいいかなあ」
王子ははんけちを出してひろげましたが、あまりいちめんきらきらしているので、もうなんだか拾 うのがばかげているような気がしました。
その時、風が来て、りんどうの花はツァリンとからだを曲 げて、その天河石 の花の盃 を下の方に向 けましたので、トパァスはツァラツァランとこぼれて下のすずらんの葉 に落 ち、それからきらきらころがって草の底 の方へもぐって行きました。
りんどうの花はそれからギギンと鳴って起 きあがり、ほっとため息 をして歌いました。
まっ碧 な空では、はちすずめがツァリル、ツァリル、ツァリルリン、ツァリル、ツァリル、ツァリルリンと鳴いて二人とりんどうの花との上をとびめぐっておりました。
「ほんとうにりんどうの花は何がかなしいんだろうね」王子はトパァスを包 もうとして、一ぺんひろげたはんけちで顔の汗 をふきながら言 いました。
「さあ私にはわかりません」
「わからないねい。こんなにきれいなんだもの。ね、ごらん、こっちのうめばちそうなどはまるで虹 のようだよ。むくむく虹 が湧 いてるようだよ。ああそうだ、ダイアモンドの露 が一つぶはいってるんだよ」
ほんとうにそのうめばちそうは、ぷりりぷりりふるえていましたので、その花の中の一つぶのダイアモンドは、まるで叫 び出すくらいに橙 や緑 に美 しくかがやき、うめばちそうの花びらにチカチカ映 って言 いようもなく立派 でした。
その時ちょうど風が来ましたので、うめばちそうはからだを少し曲 げてパラリとダイアモンドの露 をこぼしました。露 はちくちくっとおしまいの青光をあげ碧玉 の葉 の底 に沈 んで行きました。
うめばちそうはブリリンと起 きあがってもう一ぺんサッサッと光りました。金剛石 の強い光の粉 がまだはなびらに残 ってでもいたのでしょうか。そして空のはちすずめのめぐりも叫 びも、にわかにはげしくはげしくなりました。うめばちそうはまるで花びらも萼 もはねとばすばかり高く鋭 く叫 びました。
野ばらの木が赤い実 から水晶 の雫 をポトポトこぼしながらしずかに歌いました。
この時光の丘 はサラサラサラッと一めんけはいがして草も花もみんなからだをゆすったりかがめたりきらきら宝石 の露 をはらいギギンザン、リン、ギギンと起 きあがりました。そして声をそろえて空高く叫 びました。
二人 は腕 を組んで棒 のように立っていましたが王子はやっと気がついたように少しからだをかがめて、
「ね、お前たちは何がそんなにかなしいの」と野ばらの木にたずねました。
野ばらは赤い光の点々 を王子の顔に反射 させながら、
「今言 った通りです。十力 の金剛石 がまだ来ないのです」
王子は向 こうの鈴蘭 の根 もとからチクチク射 して来る黄金色 の光をまぶしそうに手でさえぎりながら、
「十力 の金剛石 ってどんなものだ」とたずねました。
野 ばらがよろこんでからだをゆすりました。
「十力 の金剛石 はただの金剛石 のようにチカチカうるさく光りはしません」
碧玉 のすずらんが百の月が集 まった晩 のように光りながら向 こうから言 いました。
「十力 の金剛石 はきらめくときもあります。かすかににごることもあります。ほのかにうすびかりする日もあります。あるときは洞穴 のようにまっくらです」
ひかりしずかな天河石 のりんどうも、もうとても踊 りださずにいられないというようにサァン、ツァン、サァン、ツァン、からだをうごかして調子 をとりながら言 いました。
「その十力 の金剛石 は春の風よりやわらかく、ある時はまるくあるときは卵 がたです。霧 より小さなつぶにもなれば、そらとつちとをうずめもします」
まひるの笑 いの虹 をあげてうめばちそうが言 いました。
「それはたちまち百千のつぶにもわかれ、また集 まって一つにもなります」
はちすずめのめぐりはあまり速 くてただルルルルルルと鳴るぼんやりした青い光の輪 にしか見えませんでした。
野 ばらがあまり気が立ち過 ぎてカチカチしながら叫 びました。
「十力 の大宝珠 はある時黒い厩肥 のしめりの中に埋 もれます。それから木や草のからだの中で月光いろにふるい、青白いかすかな脈 をうちます。それから人の子供 の苹果 の頬 をかがやかします」
そしてみんながいっしょに叫 びました。
にわかにはちすずめがキイーンとせなかの鋼鉄 の骨 もはじけたかと思うばかりするどいさけびをあげました。びっくりしてそちらを見ますと空が生き返 ったように新しくかがやき、はちすずめはまっすぐに二人 の帽子 におりて来ました。はちすずめのあとを追 って二つぶの宝石 がスッと光って二人の青い帽子 におち、それから花の間に落 ちました。
「来た来た。ああ、とうとう来た。十力 の金剛石 がとうとう下った」と花はまるでとびたつばかりかがやいて叫 びました。
木も草も花も青ぞらも一度 に高く歌いました。
急 に声がどこか別の世界に行ったらしく聞こえなくなってしまいました。そしていつか十力 の金剛石 は丘 いっぱいに下っておりました。そのすべての花も葉 も茎 も今はみなめざめるばかり立派 に変わっていました。青いそらからかすかなかすかな楽 のひびき、光の波 、かんばしく清 いかおり、すきとおった風のほめことばが丘 いちめんにふりそそぎました。
なぜならばすずらんの葉 は今はほんとうの柔 らかなうすびかりする緑色 の草だったのです。
うめばちそうはすなおな、ほんとうのはなびらをもっていたのです。そして十力 の金剛石 は野ばらの赤い実 の中のいみじい細胞 の一つ一つにみちわたりました。
その十力 の金剛石 こそは露 でした。
ああ、そしてそして十力 の金剛石 は露 ばかりではありませんでした。碧 いそら、かがやく太陽 、丘 をかけて行く風、花のそのかんばしいはなびらや、しべ、草のしなやかなからだ、すべてこれをのせになう丘 や野原、王子たちのびろうどの上着 や涙 にかがやく瞳 、すべてすべて十力 の金剛石 でした。あの十力 の大宝珠 でした。あの十力 の尊 い舎利 でした。あの十力 とは誰 でしょうか。私はやっとその名を聞いただけです。二人 もまたその名をやっと聞いただけでした。けれどもこの蒼鷹 のように若い二人 がつつましく草の上にひざまずき指 を膝 に組んでいたことはなぜでしょうか。
さてこの光の底 のしずかな林の向 こうから二人 をたずねるけらいたちの声が聞こえて参 りました。
「王子様 王子様 。こちらにおいででございますか。こちらにおいででございますか。王子様 」
二人 は立ちあがりました。
「おおい。ここだよ」と王子は叫 ぼうとしましたが、その声はかすれていました。二人 はかがやく黒い瞳 を、蒼 ぞらから林の方に向 けしずかに丘 を下って行きました。
林の中からけらいたちが出て来てよろこんで笑 ってこっちへ走って参 りました。
王子も叫 んで走ろうとしましたが、一本のさるとりいばらがにわかにすこしの青い鉤 を出して王子の足に引っかけました。王子はかがんでしずかにそれをはずしました。
王子はみんながちょっといなくなったひまに、
そして
「王子さま。王子さま。どちらにいらっしゃいますか。はて、王子さま」
と、年よりのけらいが、
王子は
その木の下で、
王子は声をかけました。
「おおい。お早う。
その小さな
「王子さま、お早うございます」と
王子が口早にききました。
「お前さっきからここにいたのかい。何してたの」
「お日さまを見ておりました。お日さまは
「うん。お日様は
「はい、また、大きな
「うん。そうだね。
王子はまたすぐ
「ね、おい。
「
王子が口早に
「おい、
「今すぐでございますか」
「うん。しかし、ルビーよりは
「
王子はうなずきました。
「うん。そうだろうね。さがしに行こうか。ね。行こうか」
「王さまに
その時うしろの
「王子さま、王子さま、どこにいらっしゃいますか。王子さま」
と、年とったけらいの声が聞こえて
王子は
「さ、行こう。さ、おいで、早く。
そして二人は
*
二人はどんどん野原の
王子ははあはあ
「さあ、も少し走ってこう。もう
みんなの声ももう聞こえませんでした。そして野原はだんだんのぼりになってきました。
二人はやっと
いつか
ふと気がつきますと遠くの
「そら
二人はまた走り出しました。けれどもその
「ここから
二人は足でけむりのような茶色の
「ね、
「そうだろうと思います」
「
「さあ」
「あ、あすこにいる。あすこにいる。あんな遠くにいるんだよ」
「森の
「また
「行ってみようよ。ね。行こう」
森の中はまっくらで
王子はめんどうくさくなったので
そして二人はどこまでもどこまでも、むくむくの
森の木は
それは、森の中に青くさし
また
王子はためいきをつきました。
すると小さなきれいな声で、
「ポッシャリ、ポッシャリ、ツイツイ、トン。
はやしのなかにふる霧 は、
蟻 のお手玉、三角帽子 の、一寸法師 のちいさなけまり」
はやしのなかにふる
「ポッシャリ、ポッシャリ、ツイツイ、トン。
はやしのなかにふる霧 は、
くぬぎのくろい実 、柏 の、かたい実 のつめたいおちち」
はやしのなかにふる
くぬぎのくろい
「
声はだんだん高くなりました。それはじょうずな
「ポッシャリ、ポッシャリ、ツイ、ツイ、ツイ。
はやしのなかにふるきりの、
つぶはだんだん大きくなり、
いまはしずくがポタリ」
はやしのなかにふるきりの、
つぶはだんだん大きくなり、
いまはしずくがポタリ」
「ポッシャン、ポッシャン、ツイ、ツイ、ツイ。
はやしのなかにふるきりは、
いまにこあめにかぁわるぞ、
木はぁみんな青外套 。
ポッシャン、ポッシャン、ポッシャン、シャン」
はやしのなかにふるきりは、
いまにこあめにかぁわるぞ、
木はぁみんな
ポッシャン、ポッシャン、ポッシャン、シャン」
きりはこあめにかわり、ポッシャンポッシャン
「
「ええ、王子さま。あなたのきものは草の
王子がにわかに
「
するとおどろいたことは、王子たちの青い大きな
「はい。何かご用でございますか」
「今の歌はお前たちか。なぜこんなに雨をふらせたのだ」
「それは王子さま。私どもの
「そしてお前らはどうして歌ったり
「はい。ここからは私どもの歌ったり
雨はポッシャンポッシャン
王子たちはそのあとをついて行きました。
*
にわかにあたりがあかるくなりました。
今までポシャポシャやっていた雨が
はちすずめが水の中の青い魚のように、なめらかにぬれて光りながら、
ザッ、ザ、ザ、ザザァザ、ザザァザ、ザザァ、
ふらばふれふれ、ひでりあめ、
トパァス、サファイア、ダイアモンド。
ふらばふれふれ、ひでりあめ、
トパァス、サファイア、ダイアモンド。
と歌いました。するとあたりの
そして
ところが二人は
雨の
その
もしその
はちすずめがたびたび
ザッザザ、ザザァザ、ザザァザザザァ、
降 らばふれふれひでりあめ
ひかりの雲のたえぬまま。
ひかりの雲のたえぬまま。
と歌いましたので雨の音はひとしお高くなり、そこらはまたひとしきりかがやきわたりました。
それから、はちすずめは、だんだんゆるやかに
ザッザザ、ザザァザ、ザザァザザザァ、
やまばやめやめ、ひでりあめ
そらは みがいた土耳古玉 。
やまばやめやめ、ひでりあめ
そらは みがいた
と歌いますと、雨がぴたりとやみました。おしまいの二つぶばかりのダイアモンドがそのみがかれた
「ね、このりんどうの花はお父さんの
「ええ
「うん。
王子ははんけちを出してひろげましたが、あまりいちめんきらきらしているので、もうなんだか
その時、風が来て、りんどうの花はツァリンとからだを
りんどうの花はそれからギギンと鳴って
「トパァスのつゆはツァランツァリルリン、
こぼれてきらめく サング、サンガリン、
ひかりの丘 に すみながら
なぁにがこんなにかなしかろ」
こぼれてきらめく サング、サンガリン、
ひかりの
なぁにがこんなにかなしかろ」
まっ
「ほんとうにりんどうの花は何がかなしいんだろうね」王子はトパァスを
「さあ私にはわかりません」
「わからないねい。こんなにきれいなんだもの。ね、ごらん、こっちのうめばちそうなどはまるで
ほんとうにそのうめばちそうは、ぷりりぷりりふるえていましたので、その花の中の一つぶのダイアモンドは、まるで
その時ちょうど風が来ましたので、うめばちそうはからだを少し
うめばちそうはブリリンと
「きらめきのゆきき
ひかりのめぐみ
にじはゆらぎ
陽 は織 れど
かなし。
青ぞらはふるい
ひかりはくだけ
風のきしり
陽 は織 れど
かなし」
ひかりのめぐみ
にじはゆらぎ
かなし。
青ぞらはふるい
ひかりはくだけ
風のきしり
かなし」
野ばらの木が赤い
「にじはなみだち
きらめきは織 る
ひかりのおかの
このさびしさ。
こおりのそこの
めくらのさかな
ひかりのおかの
このさびしさ。
たそがれぐもの
さすらいの鳥
ひかりのおかの
このさびしさ」
きらめきは
ひかりのおかの
このさびしさ。
こおりのそこの
めくらのさかな
ひかりのおかの
このさびしさ。
たそがれぐもの
さすらいの鳥
ひかりのおかの
このさびしさ」
この時光の
「十力 の金剛石 はきょうも来ず
めぐみの宝石 はきょうも降 らず
十力 の宝石 の落 ちざれば、
光の丘 も まっくろのよる
めぐみの
光の
「ね、お前たちは何がそんなにかなしいの」と野ばらの木にたずねました。
野ばらは赤い光の
「今
王子は
「
「
「
ひかりしずかな
「その
まひるの
「それはたちまち百千のつぶにもわかれ、また
はちすずめのめぐりはあまり
「
そしてみんながいっしょに
「十力 の金剛石 は今日も来ない。
その十力 の金剛石 はまだ降 らない。
おお、あめつちを充 てる十力 のめぐみ
われらに下れ」
その
おお、あめつちを
われらに下れ」
にわかにはちすずめがキイーンとせなかの
「来た来た。ああ、とうとう来た。
木も草も花も青ぞらも一
「ほろびのほのお 湧 きいでて
つちとひととを つつめども
こはやすらけき くににして
ひかりのひとら みちみてり
ひかりにみてる あめつちは
…………………」
つちとひととを つつめども
こはやすらけき くににして
ひかりのひとら みちみてり
ひかりにみてる あめつちは
…………………」
なぜならばすずらんの
うめばちそうはすなおな、ほんとうのはなびらをもっていたのです。そして
その
ああ、そしてそして
さてこの光の
「王子
「おおい。ここだよ」と王子は
林の中からけらいたちが出て来てよろこんで
王子も
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