沪江

日语文学作品赏析《北原白秋氏の肖像》

木下杢太郎 2010-01-11 00:00
   ……願ふは極秘、かのしき紅の夢……(「邪宗門」)

性慾の如くまつ青な太陽が金色こんじきの髪をちらして、
異教の寺の晩鐘の呻吟うなりのやうに高らかに、しかしさびしく、
河の底へ……底へ……底へ……と沈む時に、
幻想の黒い帆前ほまへ
滑つて行く……音もなく……
明るい灰色の硝子がらすの外で、
氏はれるまどうしろで――。
さればその光の顫音トレモロは悲しく、
氏の銅色どうしよくひたひに反射した。――さなが
青のうぐひす落日いりひますとの森で鳴くやうに……
雲の彼方あなた蘆薈ろくわい花咲く故郷ふるさとへ、故郷ふるさとへ、ねえ、故郷ふるさとへ……。

氏はたあぶるの一角から罪色つみいろくれなゐ Cura□aoきゆらさお を取つて
薄玻璃うすばり高脚杯かうきやくはいたらした……重く……ゆるやかに……。
その懐しい錯心でりいるのやさしい呼吸いきづかひのうちに、
赤、紺青、土耳古珠色とるこだまいろ、「黄なつぽい」Sentiment 色さんちまんいろ
そのあまり日向ひなたつぽ過ぎる新しい(やや似合はない)
背広のあやの音楽に首をうづめて
(かの邪宗、その寺の門前に梟首さらされた怪僧のひたひのやうに)
はげしい異国趣味えきぞちすむに飢ゑただれた氏の表情は、
あらたに南洋から帰つた商船の事務員の如く、
ひたすら卓上の罌粟けしくちびるを見詰めてる。

(かの黒い幻想の帆前ほまへは力なくもだしたのに――。)
秋の日曜日の雑沓ざつたふを恐るる象、
その如く濁つた瞳、瞳の中の青い花は、
日本につぽんの――いた、つかれた
昼の三味しやみ、女の島田、も低い曲節めろぢいから、
ああ、せめては中にまじ合惚かつぽれ進行曲まるしゆから、
『空にまつ赤な雲の色、玻璃はりにまつ赤な酒の色』から、
河に面したくりや葉牡丹はぼたん腋臭わきがから、
日を受けたタンク蒸気の引いてゆく Cadenceかだんす から、
はたそのかげの痛ましい□古聿シヨコラア
とぎれとぎれの StraussしゆとらうすGauguinごうぎやん の曲調の
うち絶えつ、またも響くやはらかかをりのうちから、
氏の厚い紫の脣はいちごの紅い霊魂を求めて居る。
瞳の青い羅曼底ろまんちつくは忘れた故郷ふるさとを捜して居る。
日が暮れるまで……

日本の憂鬱いううつな十月のよる彼岸あなた
寂しい三味線しやみせんがちんちんと鳴り出すまで、
なほも善主麿ぜんすまろおおらつしよいのりをつづけながら……
無益むやくにも……

月のかたに青ざめた帆前ほまへの黒い幻想を眺めながら……

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