啄木鳥
いにしへ聖者が雅典 の森に撞 きし、
光ぞ絶えせぬみ空の『愛の火』もて
鋳 にたる巨鐘 、無窮 のその声をぞ
染めなす『緑』よ、げにこそ霊の住家。
聞け、今、巷に喘 げる塵 の疾風
よせ来て、若やぐ生命 の森の精の
聖 きを攻むやと、終日 、啄木鳥 、
巡りて警告 夏樹 の髄 にきざむ。
往 きしは三千年 、永劫 猶 すすみて
つきざる『時』の箭 、無象の白羽の跡
追ひ行く不滅の教よ。――プラトオ、汝が
浄きを高きを天路の栄 と云ひし
霊をぞ守りて、この森不断の糧 、
奇 かるつとめを小さき鳥のすなる。
隠沼
夕影しづかに番 の白鷺 下り、
槇 の葉枯 れたる樹下 の隠沼 にて、
あこがれ歌ふよ。――『その昔 、よろこび、そは
朝明 、光の揺籃 に星と眠り、
悲しみ、汝 こそとこしへ此処 に朽 ちて、
我が喰 み啣 める泥土 と融 け沈みぬ。』――
愛の羽寄り添ひ、青瞳 うるむ見れば、
築地 の草床、涙を我も垂 れつ。
仰 げば、夕空さびしき星めざめて、
しぬびの光よ、彩 なき夢 の如 く、
ほそ糸ほのかに水底 に鎖 ひける。
哀歓かたみの輪廻 は猶 も堪へめ、
泥土 に似る身ぞ。ああさは我が隠沼、
かなしみ喰 み去る鳥さへえこそ来めや。
マカロフ提督追悼の詩
嵐よ黙 せ、暗 打つその翼 、
夜の叫びも荒磯 の黒潮も、
潮にみなぎる鬼哭 の啾々 も
暫 し唸 りを鎮 めよ。万軍の
敵も味方も汝が矛 地に伏せて、
今、大水の響に我が呼ばふ
マカロフが名に暫しは鎮まれよ。
彼を沈めて、千古の浪 狂ふ、
弦月遠きかなたの旅順口 。
ものみな声を潜めて、極冬 の
落日の威に無人の大砂漠
劫風 絶ゆる不動の滅の如、
鳴りをしづめて、ああ今あめつちに
こもる無言の叫びを聞けよかし。
きけよ、――敗者の怨 みか、暗濤の
世をくつがへす憤怒 か、ああ、あらず、――
血汐を呑 みてむなしく敗艦と
共に没 れし旅順の黒□裡 、
彼が最後の瞳 にかがやける
偉霊のちから鋭どき生の歌。
ああ偉 いなる敗者よ、君が名は
マカロフなりき。非常の死の波に
最後のちからふるへる人の名は
マカロフなりき。胡天 の孤英雄。
君を憶 へば、身はこれ敵国の
東海遠き日本の一詩人、
敵乍 らに、苦しき声あげて
高く叫ぶよ、(鬼神も跪 づけ、
敵も味方も汝 が矛 地に伏せて、
マカロフが名に暫 しは鎮まれよ。)
ああ偉 いなる敗将、軍神の
選びに入れる露西亜 の孤英雄、
無情の風はまことに君が身に
まこと無情の翼をひろげき、と。
東亜の空にはびこる暗雲の
乱れそめては、黄海波荒く、
残艦哀れ旅順の水寒き
影もさびしき故国の運命 に、
君は起 ちにき、み神の名を呼びて――
亡びの暗 の叫びの見かへりや、
我と我が威に輝やく落日の
雲路しばしの勇みを負ふ如く。
壮 なるかなや、故国の運命を
担 うて勇む胡天 の君が意気。
君は立てたり、旅順の狂風に
檣頭 高く日を射す提督 旗。――
その旗、かなし、波間に捲 きこまれ、
見る見る君が故国の運命と、
世界を撫 づるちからも海底に
沈むものとは、ああ神、人知らず。
四月十有三日、日は照らず、
空はくもりて、乱雲すさまじく
故天にかへる辺土の朝の海、
(海も狂へや、鬼神も泣き叫べ、
敵も味方も汝 が鋒 地 に伏せて、
マカロフが名に暫 しは跪 づけ。)
万雷波に躍 りて、大軸を
砕 くとひびく刹那 に、名にしおふ
黄海の王者、世界の大艦も
くづれ傾むく天地の黒□裡 、
血汐を浴びて、腕をば拱 きて、
無限の憤怒、怒濤 のかちどきの
渦巻く海に瞳を凝 らしつつ、
大提督は静かに沈みけり。
ああ運命の大海、とこしへの
憤怒の頭 擡 ぐる死の波よ、
ひと日、旅順にすさみて、千秋の
うらみ遺 せる秘密の黒潮よ、
ああ汝 、かくてこの世の九億劫 、
生と希望と意力 を呑み去りて
幽暗不知の界 に閉ぢこめて、
如何 に、如何なる証 を『永遠の
生の光』に理 示すぞや。
汝 が迫害にもろくも沈み行く
この世この生、まことに汝 が目に
映るが如く値のなきものか。
ああ休 んぬかな。歴史の文字は皆
すでに千古の涙にうるほひぬ。
うるほひけりな、今また、マカロフが
おほいなる名も我身の熱涙に。――
彼は沈みぬ、無間 の海の底。
偉霊のちからこもれる其 胸に
永劫 たえぬ悲痛の傷うけて、
その重傷 に世界を泣かしめて。
我はた惑 ふ、地上の永滅 は、
力を仰ぐ有情の涙にぞ、
仰ぐちからに不断の永生の
流転 現ずる尊 ときひらめきか。
ああよしさらば、我が友マカロフよ、
詩人の涙あつきに、君が名の
叫びにこもる力に、願 くは
君が名、我が詩、不滅の信 とも
なぐさみて、我この世にたたかはむ。
水無月 くらき夜半 の窓に凭 り、
燭にそむきて、静かに君が名を
思へば、我や、音なき狂瀾裡 、
したしく君が渦巻く死の波を
制す最後の姿を観 るが如 、
頭 は垂れて、熱涙 せきあへず。
君はや逝 きぬ。逝きても猶 逝かぬ
その偉 いなる心はとこしへに
偉霊を仰ぐ心に絶えざらむ。
ああ、夜の嵐、荒磯 のくろ潮も、
敵も味方もその額 地に伏せて
火焔 の声をあげてぞ我が呼ばふ
マカロフが名に暫 しは鎮まれよ。
彼を沈めて千古の浪狂ふ
弦月遠きかなたの旅順口。
眠れる都
鐘鳴りぬ、
いと荘厳 に
夜は重し、市 の上。
声は皆眠れる都
瞰下 せば、すさまじき
野の獅子 の死にも似たり。
ゆるぎなき
霧の巨浪 、
白う照る月影に
氷りては市を包みぬ。
港なる百船 の、
それの如 、燈影 洩 るる。
みおろせば、
眠れる都、
ああこれや、最後 の日
近づける血潮の城か。
夜の霧は、墓の如、
ものみなを封じ込めぬ。
百万の
つかれし人は
眠るらし、墓の中。
天地 を霧は隔てて、
照りわたる月かげは
天 の夢地にそそがず。
声もなき
ねむれる都、
しじまりの大いなる
声ありて、霧のまにまに
ただよひぬ、ひろごりぬ、
黒潮のそのどよみと。
ああ声は
昼のぞめきに
けおされしたましひの
打なやむ罪の唸 りか。
さては又、ひねもすの
たたかひの名残 の声か。
我が窓は、
濁 れる海を
遶 らせる城の如、
遠寄 せに怖れまどへる
詩 の胸守りつつ、
月光を隈 なく入れぬ。
東京
かくやくの夏の日は、今
子午 線の上にかかれり。
煙突の鉄の林や、煙皆、煤黒 き手に
何をかも攫 むとすらむ、ただ直 に天をぞ射 せる。
百千網 巷巷 に空車行く音もなく
あはれ、今、都大路に、大真夏光動かぬ
寂寞 よ、霜夜の如く、百万の心を圧せり。
千万の甍 今日こそ色もなく打鎮 りぬ。
紙の片白き千ひらを撒 きて行く通魔 ありと、
家家の門や又窓 、黒布に皆とざされぬ。
百千網都大路に人の影暁星の如
いと稀 に。――かくて、骨泣く寂滅 死の都、見よ。
かくやくの夏の日は、今
子午線の上にかかれり。
何方 ゆ流れ来ぬるや、黒星よ、真北の空に
飛ぶを見ぬ。やがて大路の北の涯 、天路に聳 る
層楼の屋根にとまれり。唖唖 として一声、――これよ
凶鳥 の不浄の烏 。――骨あさる鳥なり、はたや、
死の空にさまよひ叫ぶ怨恨 の毒嘴 の鳥。
鳥啼 きぬ、二度。――いかに、其声の猶 終らぬに、
何方ゆ現れ来しや、幾尺の白髪かき垂れ、
いな光る剣捧 げし童顔の翁 あり。ああ、
黒長裳 静かに曳 くや、寂寞の戸に反響 して、
沓 の音全都に響き、唯一人大路を練れり。
有りとある磁石の針は
子午線の真北を射せり。
吹角
みちのくの谷の若人、牧の子は
若葉衣の夜心に、
赤葉の芽ぐみ物燻 ゆる五月 の丘の
柏 木立をたもとほり、
落ちゆく月を背に負ひて、
東白 の空のほのめき――
天 の扉 の真白き礎 ゆ湧く水の
いとすがすがし。――
ひたひたと木陰地 に寄せて、
足もとの朝草小露明らみぬ。
風はも涼 し。
みちのくの牧の若人露ふみて
もとほり心角 吹けば、
吹き、また吹けば、
渓川 の石津瀬 はしる水音も
あはれ、いのちの小鼓 の鳴の遠音 と
ひびき寄す。
ああ静心 なし。
丘のつづきの草の上 に
白き光のまろぶかと
ふとしも動く物の影。――
凹 みの埓 の中に寝て、
心うゑたる暁の夢よりさめし
小羊の群は、静かにひびき来る
角の遠音にあくがれて、
埓こえ、草をふみしだき、直 に走りぬ。
暁の声する方 の丘の辺 に。――
ああ歓 びの朝の舞、
新乳 の色の衣して、若き羊は
角ふく人の身を繞 り、
すずしき風に啼 き交 し、また小躍 りぬ。
あはれ、いのちの高丘に
誰ぞ角吹かば、
我も亦 この世の埓をとびこえて、
野ゆき、川ゆき、森をゆき、
かの山越えて、海越えて、
行かましものと、
みちのくの谷の若人、いやさらに
角吹き吹きて、静心なし。
年老いし彼は商人
年老いし彼は商人 。
靴 、鞄 、帽子、革帯 、
ところせく列 べる店に
坐り居て、客のくる毎 、
尽日 や、はた、電燈の
青く照る夜も更 くるまで、
てらてらに禿 げし頭を
礼 あつく千度 下げつつ、
なれたれば、いと滑 らかに
数数の世辞をならべぬ。
年老いし彼はあき人。
かちかちと生命 を刻む
ボンボンの下の帳場や、
簿記台 の上に低 れたる
其 頭、いと面白 し。
その頭低 るる度毎 、
彼が日は短くなりつ、
年こそは重みゆきけれ。
かくて、見よ、髪の一条
落ちつ、また、二条、三条、
いつとなく抜けたり、遂 に
面白し、禿げたる頭。
その頭、禿げゆくままに、
白壁の土蔵 の二階、
黄金の宝の山は
(目もはゆし、暗 の中にも。)
積まれたり、いと堆 かく。
埃及 の昔の王は
わが墓の大金字塔 を
つくるとて、ニルの砂原、
十万の黒兵者 を
二十年 も役 せしといふ。
年老いしこの商人 も
近つ代の栄の王者、
幾人の小僧つかひて、
人の見ぬ土蔵の中に
きづきたり、宝の山を。――
これこそは、げに、目もはゆき
新世 の金字塔 ならし、
霊魂 の墓の標 の。
辻
老いたるも、或は、若きも、
幾十人、男女や、
東より、はたや、西より、
坂の上、坂の下より、
おのがじし、いと急 しげに
此処 過ぐる。
今わが立つは、
海を見る広き巷 の
四の辻。――四の角なる
家は皆いと厳 めしし。
銀行と、領事の館 、
新聞社、残る一つは、
人の罪嗅 ぎて行くなる
黒犬を飼へる警察。
此処過ぐる人は、見よ、皆、
空高き日をも仰 がず、
船多き海も眺めず、
ただ、人の作れる路 を、
人の住む家を見つつぞ、
人とこそ群れて行くなれ。
白髯 の翁 も、はたや、
絹傘 の若き少女 も、
少年も、また、靴鳴らし
煙草 吹く海産商も、
丈 高き紳士も、孫を
背に負へる痩 せし媼 も、
酒肥 り、いとそりかへる
商人 も、物乞ふ児 等も、
口笛の若き給仕も、
家持たぬ憂 き人人も。
せはしげに過ぐるものかな。
広き辻、人は多けど、
相知れる人や無からむ。
並行けど、はた、相逢 へど、
人は皆、そしらぬ身振、
おのがじし、おのが道をぞ
急ぐなれ、おのもおのもに。
心なき林の木木も
相凭 りて枝こそ交 せ、
年毎に落ちて死ぬなる
木の葉さへ、朝風吹けば、
朝さやぎ、夕風吹けば、
夕語りするなるものを、
人の世は疎 らの林、
人の世は人なき砂漠。
ああ、我も、わが行くみちの
今日ひと日、語る伴侶 なく、
この辻を、今、かく行くと、
思ひつつ、歩み移せば、
けたたまし戸の音ひびき、
右手なる新聞社より
駆け出でし男幾人 、
腰の鈴高く鳴らして
駆け去りぬ、四の角より
四の路おのも、おのもに。
今五月、霽 れたるひと日、
日の光曇らず、海に
牙 鳴らす浪もなけれど、
急がしき人の国には
何事か起りにけらし。
無題
札幌 は一昨日 以来
ひき続きいと天気よし。
夜に入りて冷たき風の
そよ吹けば少し曇 れど、
秋の昼、日はほかほかと
丈 ひくき障子 を照し、
寝ころびて物を思へば、
我が頭ボーッとする程
心地よし、流離 の人も。
おもしろき君の手紙は
昨日見ぬ。うれしかりしな。
うれしさにほくそ笑みして
読み了 へし、我が睫毛 には、
何しかも露の宿りき。
生肌 の木の香くゆれる
函館よ、いともなつかし。
木をけづる木片大工 も
おもしろき恋やするらめ。
新らしく立つ家々に
将来の恋人共が
母 ちゃんに甘へてや居む。
はたや又、我がなつかしき
白村に翡翠 白鯨
我が事を語りてあらむ。
なつかしき我が武 ちゃんよ、――
今様 のハイカラの名は
敬慕するかはせみの君、
外国 のラリルレ語
酔漢 の語でいへば
m…m…my dear brethren !――
君が文読み、くり返し、
我が心青柳町の
裏長屋、十八番地
ムの八にかへりにけりな。
世の中はあるがままにて
怎 かなる。心配はなし。
我たとへ、柳に南瓜
なった如、ぶらりぶらりと
貧乏の重い袋を
痩腰に下げて歩けど、
本職の詩人、はた又
兼職の校正係、
どうかなる世の中なれば
必ずや怎かなるべし。
見よや今、「小樽日々 」
「タイムス」は南瓜の如き
蔓 の手を我にのばしぬ。
来むとする神無月 には、
ぶらぶらの南瓜の性 の
校正子、記者に経上 り
どちらかへころび行くべし。
一昨日 はよき日なりけり。
小樽より我が妻せつ子
朝に来て、夕べ帰りぬ。
札幌に貸家なけれど、
親切な宿の主婦 さん、
同室の一少年と
猫の糞 他室へ移し
この室を我らのために
貸すべしと申出でたり。
それよしと裁可したれば、
明後日妻は京子と
鍋 、蒲団 、鉄瓶 、茶盆 、
携 へて再び来り、
六畳のこの一室に
新家庭作り上ぐべし。
願くは心休めよ。
その節に、我来 し後 の
君達の好意、残らず
せつ子より聞き候ひぬ。
焼跡の丸井の坂を
荷車にぶらさがりつつ、
(ここに又南瓜こそあれ、)
停車場に急ぎゆきけん
君達の姿思ひて
ふき出しぬ。又其心
打忍び、涙流しぬ。
日高なるアイヌの君の
行先ぞ気にこそかかれ。
ひょろひょろの夷希薇 の君に
事問へど更にわからず。
四日前に出しやりたる
我が手紙、未だもどらず
返事来ず。今の所は
一向に五里霧中 なり。
アノ人の事にしあれば、
瓢然 と鳥の如くに
何処へか翔 りゆきけめ。
大 したる事のなからむ。
とはいへど、どうも何だか
気にかかり、たより待たるる。
北の方旭川なる
丈高き見習士官
遠からず演習のため
札幌に来るといふなる
たより来ぬ。豚鍋つつき
語らむと、これも待たるる。
待たるるはこれのみならず、
願くは兄弟達よ
手紙呉 れ。ハガキでもよし。
函館のたよりなき日は
何となく唯我一人
荒れし野に追放されし
思ひして、心クサクサ、
訳 もなく我がかたはらの、
猫の糞癪 にぞさわれ。
猫の糞可哀相 なり、
鼻下の髯、二分 程のびて
物いへば、いつも滅茶苦茶、
今も猶 無官の大夫、
実際は可哀相だよ。
札幌は静けき都、
秋の日のいと温かに
虻 の声おとづれ来なる
南窓 、うつらうつらの
我が心、ふと浮気 出 し、
筆とりて書きたる文 は
見よやこの五七の調よ、
其昔、髯のホメロス
イリヤドを書きし如くに
すらすらと書きこそしたれ。
札幌は静けき都、夢に来よかし。
反歌
白村が第二の愛児 笑むらむかはた
泣くらむか聞かまほしくも。
なつかしき我が兄弟 よ我がために
文かけ、よしや頭掻 かずも。
北の子は独逸 語習ふ、いざやいざ
我が正等 よ競駒 せむ。
うつらうつら時すぎゆきて隣室の
時計二時うつ、いざ出社せむ。
四十年九月二十三日
札幌にて 啄木拝
並木兄 御侍史
無題
一年ばかりの間、いや一と月でも
一週間でも、三日でもいい。
神よ、もしあるなら、ああ、神よ、
私の願ひはこれだけだ。どうか、
身体 をどこか少しこはしてくれ痛くても
関 はない、どうか病気さしてくれ!
ああ! どうか……
真白な、柔 らかな、そして
身体がフウワリと何処までも――
安心の谷の底までも沈んでゆく様な布団 の上に、いや
養老院の古畳の上でもいい、
何も考へずに(そのまま死んでも
惜しくはない)ゆっくりと寝てみたい!
手足を誰か来て盗んで行っても
知らずにゐる程ゆっくり寝てみたい!
どうだらう! その気持は! ああ。
想像するだけでも眠くなるやうだ! 今著 てゐる
この著物を――重い、重いこの責任の著物を
脱ぎ棄 てて了 ったら(ああ、うっとりする!)
私のこの身体が水素のやうに
ふうわりと軽くなって、
高い高い大空へ飛んでゆくかも知れない――「雲雀 だ」
下ではみんながさう言ふかも知れない! ああ!
――――――――――――――
死だ! 死だ! 私の願ひはこれ
たった一つだ! ああ!
あ、あ、ほんとに殺すのか? 待ってくれ、
ありがたい神様、あ、ちょっと!
ほんの少し、パンを買ふだけだ、五―五―五―銭でもいい!
殺すくらゐのお慈悲 があるなら!
新らしき都の基礎
やがて世界の戦 は来らん!
不死鳥 の如き空中軍艦が空に群れて、
その下にあらゆる都府が毀 たれん!
戦 は永く続かん! 人々の半ばは骨となるならん!
然 る後、あはれ、然る後、我等の
『新らしき都』はいづこに建つべきか?
滅びたる歴史の上にか? 思考と愛の上にか? 否、否。
土の上に。然り、土の上に、何の――夫婦と云ふ
定まりも区別もなき空気の中に
果て知れぬ蒼 き、蒼き空の下 に!
夏の街の恐怖
焼けつくやうな夏の日の下に
おびえてぎらつく軌条 の心。
母親の居睡 りの膝 から辷 り下りて、
肥 った三歳 ばかりの男の児が
ちょこちょこと電車線路へ歩いて行く。
八百屋の店には萎 えた野菜。
病院の窓の窓掛 は垂 れて動かず。
閉 された幼稚園の鉄の門の下には
耳の長い白犬が寝そべり、
すベて、限りもない明るさの中に
どこともなく、芥子 の花が死落 ち、
生木 の棺 に裂罅 の入る夏の空気のなやましさ。
病身の氷屋の女房が岡持を持ち、
骨折れた蝙蝠傘 をさしかけて門を出れば、
横町の下宿から出て進み来る、
夏の恐怖に物言はぬ脚気 患者の葬 りの列。
それを見て辻の巡査は出かかった欠呻 噛 みしめ、
白犬は思ふさまのびをして、
塵溜 の蔭に行く。
起きるな
西日をうけて熱くなった
埃 だらけの窓の硝子 よりも
まだ味気ない生命 がある。
正体もなく考へに疲れきって、
汗を流し、いびきをかいて昼寝してゐる
まだ若い男の口からは黄色い歯が見え、
硝子越しの夏の日が毛脛 を照し、
その上に蚤 が這 ひあがる。
起きるな、超きるな、日の暮れるまで。
そなたの一生に冷しい静かな夕ぐれの来るまで。
何処かで艶 いた女の笑ひ声。
事ありげな春の夕暮
遠い国には戦 があり……
海には難破船の上の酒宴 ……
質屋の店には蒼 ざめた女が立ち、
燈火 にそむいてはなをかむ。
其処 を出て来れば、路次の口に
情夫 の背を打つ背低い女――
うす暗がりに財布 を出す。
何か事ありげな――
春の夕暮の町を圧する
重く淀 んだ空気の不安。
仕事の手につかぬ一日が暮れて、
何に疲れたとも知れぬ疲れがある。
遠い国には沢山の人が死に……
また政庁に推寄 せる女壮士のさけび声……
海には信夫翁 の疫病……
あ、大工 の家では洋燈 が落ち、
大工の妻が跳 び上る。
騎馬の巡査
絶間 なく動いてゐる須田町の人込 の中に、
絶間なく目を配って、立ってゐる騎馬 の巡査――
見すぼらしい銅像のやうな――。
白痴の小僧は馬の腹をすばしこく潜 りぬけ、
荷を積み重ねた赤い自動車が
その鼻先を行く。
数ある往来の人の中には
子供の手を曳 いた巡査の妻もあり
実家 へ金借りに行った帰り途 、
ふと此 の馬上の人を見上げて、
おのが夫の勤労を思ふ。
あ、犬が電車に轢 かれた――
ぞろぞろと人が集る。
巡査も馬を進める……
はてしなき議論の後(一)
暗き、暗き曠野 にも似たる
わが頭脳の中に、
時として、電 のほとばしる如 く、
革命の思想はひらめけども――
あはれ、あはれ、
かの壮快 なる雷鳴 は遂 に聞え来らず。
我は知る、
その電に照し出さるる
新しき世界の姿を。
其処 にては、物みなそのところを得べし。
されど、そは常に一瞬にして消え去るなり、
しかして、この壮快なる雷鳴は遂に聞え来らず。
暗き、暗き曠野にも似たる
わが頭脳の中に
時として、電のほとばしる如く、
革命の思想はひらめけども――
はてしなき議論の後(二)
われらの且 つ読み、且つ議論を闘 はすこと、
しかしてわれらの眼の輝けること、
五十年前の露西亜 の青年に劣らず。
われらは何を為 すべきかを議論す。
されど、誰一人、握りしめたる拳 に卓 をたたきて、
‘V NAROD !’と叫び出づるものなし。
われらはわれらの求むるものの何なるかを知る、
また、民衆の求むるものの何なるかを知る、
しかして、我等の何を為すべきかを知る。
実に五十年前の露西亜の青年よりも多く知れり。
されど、誰一人、握りしめたる拳に卓をたたきて、
‘V NAROD !’と叫び出づるものなし。
此処 にあつまれる者は皆青年なり、
常に世に新らしきものを作り出だす青年なり。
われらは老人の早く死に、しかしてわれらの遂 に勝つべきを知る。
見よ、われらの眼の輝けるを、またその議論の激しきを。
されど、誰一人、握りしめたる拳に卓をたたきて、
‘V NAROD !’と叫び出づるものなし。
ああ、蝋燭 はすでに三度も取りかへられ、
飲料 の茶碗 には小さき羽虫の死骸 浮び、
若き婦人の熱心に変りはなけれど、
その眼には、はてしなき議論の後の疲れあり。
されど、なほ、誰一人、握りしめたる拳に卓をたたきて、
‘V NAROD !’と叫び出づるものなし。
ココアのひと匙
われは知る、テロリストの
かなしき心を――
言葉とおこなひとを分ちがたき
ただひとつの心を、
奪 はれたる言葉のかはりに
おこなひをもて語らんとする心を、
われとわがからだを敵に擲 げつくる心を――
しかして、そは真面目にして熱心なる人の常に有 つかなしみなり。
はてしなき議論の後の
冷 めたるココアのひと匙 を啜 りて、
そのうすにがき舌触 りに
われは知る、テロリストの
かなしき、かなしき心を。
書斎の午後
われはこの国の女を好まず。
読みさしの舶来の本の
手ざはりあらき紙の上に、
あやまちて零 したる葡萄酒 の
なかなかに浸 みてゆかぬかなしみ。
われはこの国の女を好まず。
激論
われはかの夜の激論を忘るること能 はず、
新らしき社会に於 ける「権力」の処置に就 きて、
はしなくも、同志の一人なる若き経済学者Nと
我との間に惹 き起されたる激論を、
かの五時間に亙 れる激論を。
「君の言ふ所は徹頭徹尾煽動家 の言なり。」
かれは遂 にかく言ひ放ちき。
その声はさながら咆 ゆるごとくなりき。
若 しその間に卓子 のなかりせば、
かれの手は恐らくわが頭 を撃ちたるならむ。
われはその浅黒き、大いなる顔の
男らしき怒りに漲 れるを見たり。
五月の夜はすでに一時なりき。
或 る一人の立ちて窓を明けたるとき、
Nとわれとの間なる蝋燭 の火は幾度か揺れたり。
病みあがりの、しかして快く熱したるわが頬 に、
雨をふくめる夜風の爽 かなりしかな。
さてわれは、また、かの夜の、
われらの会合に常にただ一人の婦人なる
Kのしなやかなる手の指環 を忘るること能 はず。
ほつれ毛をかき上ぐるとき、
また、蝋燭の心 を截 るとき、
そは幾度かわが眼の前に光りたり。
しかして、そは実にNの贈れる約婚のしるしなりき。
されど、かの夜のわれらの議論に於いては、
かの女 は初めよりわが味方なりき。
墓碑銘
われは常にかれを尊敬せりき、
しかして今も猶 尊敬す――
かの郊外の墓地の栗 の木の下に
かれを葬 りて、すでにふた月を経たれど。
実 に、われらの会合の席に彼を見ずなりてより、
すでにふた月は過ぎ去りたり。
かれは議論家にてはなかりしかど、
なくてかなはぬ一人なりしが。
或る時、彼の語りけるは、
「同志よ、われの無言をとがむることなかれ。
われは議論すること能 はず、
されど、我には何時 にても起 つことを得る準備あり。」
「彼の眼は常に論者の怯懦 を叱責 す。」
同志の一人はかくかれを評しき。
然 り、われもまた度度 しかく感じたりき。
しかして、今や再びその眼より正義の叱責をうくることなし。
かれは労働者――一個の機械職工なりき。
かれは常に熱心に、且 つ快活に働き、
暇 あれば同志と語り、またよく読書したり。
かれは煙草 も酒も用ゐざりき。
かれの真摯 にして不屈、且つ思慮深き性格は、
かのジュラの山地のバクウニンが友を忍ばしめたり。
かれは烈 しき熱に冒 されて、病の床に横 はりつつ、
なほよく死にいたるまで譫話 を口にせざりき。
「今日は五月一日なり、われらの日なり。」
これ、かれのわれに遺 したる最後の言葉なり。
この日の朝 、われはかれの病を見舞ひ、
その日の夕 、かれは遂に永き眠りに入れり。
ああ、かの広き額 と、鉄槌 のごとき腕 と、
しかして、また、かの生を恐れざりしごとく
死を恐れざりし、常に直視する眼と、
眼 つぶれば今も猶わが前にあり。
彼の遺骸 は、一個の唯物論 者として
かの栗の木の下に葬られたり。
われら同志の撰びたる墓碑銘 は左の如し、
「われは何時 にても起つことを得る準備あり。」
古びたる鞄をあけて
わが友は、古びたる鞄 をあけて、
ほの暗き蝋燭 の火影 の散らぼへる床に、
いろいろの本を取り出だしたり。
そは皆この国にて禁じられたるものなりき。
やがて、わが友は一葉の写真を探しあてて、
「これなり」とわが手に置くや、
静かにまた窓に凭 りて口笛を吹き出したり。
そは美くしとにもあらぬ若き女の写真なりき。
げに、かの場末の
げに、かの場末の縁日の夜の
活動写真の小屋の中に、
青臭 きアセチレン瓦斯 の漂 へる中に、
鋭くも響きわたりし
秋の夜の呼子の笛はかなしかりしかな。
ひょろろろと鳴りて消ゆれば、
あたり忽 ち暗くなりて、
薄青きいたづら小僧の映画ぞわが眼にはうつりたる。
やがて、また、ひょろろと鳴れば、
声嗄 れし説明者こそ、
西洋の幽霊 の如 き手つきして、
くどくどと何事を語り出でけれ。
我はただ涙ぐまれき。
されど、そは、三年 も前の記憶なり。
はてしなき議論の後の疲れたる心を抱き、
同志の中の誰彼 の心弱さを憎みつつ、
ただひとり、雨の夜の町を帰り来れば、
ゆくりなく、かの呼子の笛が思ひ出されたり。
――ひょろろろと、
また、ひょろろろと――
我は、ふと、涙ぐまれぬ。
げに、げに、わが心の餓 ゑて空 しきこと、
今も猶 昔のごとし。
わが友は、今日も
我が友は、今日もまた、
マルクスの「資本論 」の
難解になやみつつあるならむ。
わが身のまはりには、
黄色なる小さき花片 が、ほろほろと、
何故 とはなけれど、
ほろほろと散るごときけはひあり。
もう三十にもなるといふ、
身の丈 三尺ばかりなる女の、
赤き扇 をかざして踊るを、
見世物 にて見たることあり。
あれはいつのことなりけむ。
それはさうと、あの女は――
ただ一度我等の会合に出て
それきり来なくなりし――
あの女は、
今はどうしてゐるらむ。
明るき午後のものとなき静心 なさ。
家
今朝も、ふと、目のさめしとき、
わが家と呼ぶべき家の欲しくなりて、
顔洗ふ間もそのことをそこはかとなく思ひしが、
つとめ先より一日の仕事を了 へて帰り来て、
夕餉 の後の茶を啜 り、煙草 をのめば、
むらさきの煙の味のなつかしさ、
はかなくもまたそのことのひょっと心に浮び来る――
はかなくもまたかなしくも。
場所は、鉄道に遠からぬ、
心おきなき故郷の村のはづれに選びてむ。
西洋風の木造のさっぱりとしたひと構 へ、
高からずとも、さてはまた何の飾りのなしとても、
広き階段とバルコンと明るき書斎……
げにさなり、すわり心地のよき椅子 も。
この幾年に幾度も思ひしはこの家のこと、
思ひし毎 に少しづつ変へし間取りのさまなどを
心のうちに描 きつつ、
ランプの笠 の真白きにそれとなく眼をあつむれば、
その家に住むたのしさのまざまざ見ゆる心地して、
泣く児に添乳 する妻のひと間の隅のあちら向き、
そを幸ひと口もとにはかなき笑みものぼり来る。
さて、その庭は広くして草の繁るにまかせてむ。
夏ともなれば、夏の雨、おのがじしなる草の葉に
音立てて降るこころよさ。
またその隅にひともとの大樹を植ゑて、
白塗の木の腰掛を根に置かむ――
雨降らぬ日は其処 に出て、
かの煙濃 く、かをりよき埃及 煙草ふかしつつ、
四五日おきに送り来る丸善よりの新刊の
本の頁 を切りかけて、
食事の知らせあるまでをうつらうつらと過ごすべく、
また、ことごとにつぶらなる眼を見ひらきて聞きほるる
村の子供を集めては、いろいろの話聞かすべく……
はかなくも、またかなしくも、
いつとしもなく、若き日にわかれ来りて、
月月のくらしのことに疲れゆく、
都市居住者のいそがしき心に一度浮びては、
はかなくも、またかなしくも
なつかしくして、何時 までも棄 つるに惜 しきこの思ひ、
そのかずかずの満たされぬ望みと共に、
はじめより空しきことと知りながら、
なほ、若き日に人知れず恋せしときの眼付して、
妻にも告げず、真白なるランプの笠を見つめつつ、
ひとりひそかに、熱心に、心のうちに思ひつづくる。
飛行機
見よ、今日も、かの蒼空 に
飛行機の高く飛べるを。
給仕づとめの少年が
たまに非番の日曜日、
肺病やみの母親とたった二人の家にゐて、
ひとりせっせとリイダアの独学をする眼の疲れ……
見よ、今日も、かの蒼空に
飛行機の高く飛べるを。
いにしへ聖者が
光ぞ絶えせぬみ空の『愛の火』もて
染めなす『緑』よ、げにこそ霊の住家。
聞け、今、巷に
よせ来て、若やぐ
巡りて
つきざる『時』の
追ひ行く不滅の教よ。――プラトオ、汝が
浄きを高きを天路の
霊をぞ守りて、この森不断の
隠沼
夕影しづかに
あこがれ歌ふよ。――『その
悲しみ、
我が
愛の羽寄り添ひ、
しぬびの光よ、
ほそ糸ほのかに
哀歓かたみの
かなしみ
マカロフ提督追悼の詩
(明治三十七年四月十三日、我が東郷大提督の艦隊大挙して旅順港口に迫るや、敵将マカロフ提督之 を迎撃せむとし、倉皇 令 を下して其旗艦ペトロパフロスクを港外に進めしが、武運や拙 なかりけむ、我が沈設水雷に触れて、巨艦一爆、提督も亦 艦と運命を共にしぬ。)
嵐よ
夜の叫びも
潮にみなぎる
敵も味方も汝が
今、大水の響に我が呼ばふ
マカロフが名に暫しは鎮まれよ。
彼を沈めて、千古の
弦月遠きかなたの
ものみな声を潜めて、
落日の威に無人の大砂漠
鳴りをしづめて、ああ今あめつちに
こもる無言の叫びを聞けよかし。
きけよ、――敗者の
世をくつがへす
血汐を
共に
彼が最後の
偉霊のちから鋭どき生の歌。
ああ
マカロフなりき。非常の死の波に
最後のちからふるへる人の名は
マカロフなりき。
君を
東海遠き日本の一詩人、
高く叫ぶよ、(鬼神も
敵も味方も
マカロフが名に
ああ
選びに入れる
無情の風はまことに君が身に
まこと無情の翼をひろげき、と。
東亜の空にはびこる暗雲の
乱れそめては、黄海波荒く、
残艦哀れ旅順の水寒き
影もさびしき故国の
君は
亡びの
我と我が威に輝やく落日の
雲路しばしの勇みを負ふ如く。
君は立てたり、旅順の狂風に
その旗、かなし、波間に
見る見る君が故国の運命と、
世界を
沈むものとは、ああ神、人知らず。
四月十有三日、日は照らず、
空はくもりて、乱雲すさまじく
故天にかへる辺土の朝の海、
(海も狂へや、鬼神も泣き叫べ、
敵も味方も
マカロフが名に
万雷波に
黄海の王者、世界の大艦も
くづれ傾むく天地の
血汐を浴びて、腕をば
無限の憤怒、
渦巻く海に瞳を
大提督は静かに沈みけり。
ああ運命の大海、とこしへの
憤怒の
ひと日、旅順にすさみて、千秋の
うらみ
ああ
生と希望と
幽暗不知の
生の光』に
この世この生、まことに
映るが如く値のなきものか。
ああ
すでに千古の涙にうるほひぬ。
うるほひけりな、今また、マカロフが
おほいなる名も我身の熱涙に。――
彼は沈みぬ、
偉霊のちからこもれる
その
我はた
力を仰ぐ有情の涙にぞ、
仰ぐちからに不断の永生の
ああよしさらば、我が友マカロフよ、
詩人の涙あつきに、君が名の
叫びにこもる力に、
君が名、我が詩、不滅の
なぐさみて、我この世にたたかはむ。
燭にそむきて、静かに君が名を
思へば、我や、音なき
したしく君が渦巻く死の波を
制す最後の姿を
君はや
その
偉霊を仰ぐ心に絶えざらむ。
ああ、夜の嵐、
敵も味方もその
マカロフが名に
彼を沈めて千古の浪狂ふ
弦月遠きかなたの旅順口。
眠れる都
(京に入りて間もなく宿りける駿河台の新居、窓を開けば、竹林の崖下、一望甍 の谷ありて眼界を埋めたり。秋なれば夜毎に、甍の上は重き霧、霧の上に月照りて、永く山村僻陬 の間にありし身には、いと珍らかの眺めなりしか。一夜興をえて□々 筆を染めけるもの乃 ちこの短調七聯 の一詩也。「枯林」より「二つの影」までの七篇は、この甍の谷にのぞめる窓の三週の仮住居になれるものなりき)
鐘鳴りぬ、
いと
夜は重し、
声は皆眠れる都
野の
ゆるぎなき
霧の
白う照る月影に
氷りては市を包みぬ。
港なる
それの
みおろせば、
眠れる都、
ああこれや、
近づける血潮の城か。
夜の霧は、墓の如、
ものみなを封じ込めぬ。
百万の
つかれし人は
眠るらし、墓の中。
照りわたる月かげは
声もなき
ねむれる都、
しじまりの大いなる
声ありて、霧のまにまに
ただよひぬ、ひろごりぬ、
黒潮のそのどよみと。
ああ声は
昼のぞめきに
けおされしたましひの
打なやむ罪の
さては又、ひねもすの
たたかひの
我が窓は、
月光を
東京
かくやくの夏の日は、今
煙突の鉄の林や、煙皆、
何をかも
あはれ、今、都大路に、大真夏光動かぬ
千万の
紙の片白き千ひらを
家家の門や又
百千網都大路に人の影暁星の如
いと
かくやくの夏の日は、今
子午線の上にかかれり。
飛ぶを見ぬ。やがて大路の北の
層楼の屋根にとまれり。
死の空にさまよひ叫ぶ
鳥
何方ゆ現れ来しや、幾尺の白髪かき垂れ、
いな光る剣
有りとある磁石の針は
子午線の真北を射せり。
みちのくの谷の若人、牧の子は
若葉衣の夜心に、
赤葉の芽ぐみ物
落ちゆく月を背に負ひて、
いとすがすがし。――
ひたひたと
足もとの朝草小露明らみぬ。
風はも
みちのくの牧の若人露ふみて
もとほり
吹き、また吹けば、
あはれ、いのちの
ひびき寄す。
ああ
丘のつづきの草の
白き光のまろぶかと
ふとしも動く物の影。――
心うゑたる暁の夢よりさめし
小羊の群は、静かにひびき来る
角の遠音にあくがれて、
埓こえ、草をふみしだき、
暁の声する
ああ
角ふく人の身を
すずしき風に
あはれ、いのちの高丘に
誰ぞ角吹かば、
我も
野ゆき、川ゆき、森をゆき、
かの山越えて、海越えて、
行かましものと、
みちのくの谷の若人、いやさらに
角吹き吹きて、静心なし。
年老いし彼は商人
年老いし彼は
ところせく
坐り居て、客のくる
青く照る夜も
てらてらに
なれたれば、いと
数数の世辞をならべぬ。
年老いし彼はあき人。
かちかちと
ボンボンの下の帳場や、
その頭
彼が日は短くなりつ、
年こそは重みゆきけれ。
かくて、見よ、髪の
落ちつ、また、二条、三条、
いつとなく抜けたり、
面白し、禿げたる頭。
その頭、禿げゆくままに、
白壁の
黄金の宝の山は
(目もはゆし、
積まれたり、いと
わが墓の
つくるとて、ニルの砂原、
十万の
年老いしこの
近つ代の栄の王者、
幾人の小僧つかひて、
人の見ぬ土蔵の中に
きづきたり、宝の山を。――
これこそは、げに、目もはゆき
辻
老いたるも、或は、若きも、
幾十人、男女や、
東より、はたや、西より、
坂の上、坂の下より、
おのがじし、いと
今わが立つは、
海を見る広き
四の辻。――四の角なる
家は皆いと
銀行と、領事の
新聞社、残る一つは、
人の罪
黒犬を飼へる警察。
此処過ぐる人は、見よ、皆、
空高き日をも
船多き海も眺めず、
ただ、人の作れる
人の住む家を見つつぞ、
人とこそ群れて行くなれ。
少年も、また、靴鳴らし
背に負へる
口笛の若き給仕も、
家持たぬ
せはしげに過ぐるものかな。
広き辻、人は多けど、
相知れる人や無からむ。
並行けど、はた、相
人は皆、そしらぬ身振、
おのがじし、おのが道をぞ
急ぐなれ、おのもおのもに。
心なき林の木木も
相
年毎に落ちて死ぬなる
木の葉さへ、朝風吹けば、
朝さやぎ、夕風吹けば、
夕語りするなるものを、
人の世は
人の世は人なき砂漠。
ああ、我も、わが行くみちの
今日ひと日、語る
この辻を、今、かく行くと、
思ひつつ、歩み移せば、
けたたまし戸の音ひびき、
右手なる新聞社より
駆け出でし男
腰の鈴高く鳴らして
駆け去りぬ、四の角より
四の路おのも、おのもに。
今五月、
日の光曇らず、海に
急がしき人の国には
何事か起りにけらし。
無題
ひき続きいと天気よし。
夜に入りて冷たき風の
そよ吹けば少し
秋の昼、日はほかほかと
寝ころびて物を思へば、
我が頭ボーッとする程
心地よし、
おもしろき君の手紙は
昨日見ぬ。うれしかりしな。
うれしさにほくそ笑みして
読み
何しかも露の宿りき。
函館よ、いともなつかし。
木をけづる
おもしろき恋やするらめ。
新らしく立つ家々に
将来の恋人共が
はたや又、我がなつかしき
白村に
我が事を語りてあらむ。
なつかしき我が
敬慕するかはせみの君、
m…m…my dear brethren !――
君が文読み、くり返し、
我が心青柳町の
裏長屋、十八番地
ムの八にかへりにけりな。
世の中はあるがままにて
我たとへ、柳に
なった如、ぶらりぶらりと
貧乏の重い袋を
痩腰に下げて歩けど、
本職の詩人、はた又
兼職の校正係、
どうかなる世の中なれば
必ずや怎かなるべし。
見よや今、「小樽
「タイムス」は南瓜の如き
来むとする
ぶらぶらの南瓜の
校正子、記者に
どちらかへころび行くべし。
小樽より我が妻せつ子
朝に来て、夕べ帰りぬ。
札幌に貸家なけれど、
親切な宿の
同室の一少年と
猫の
この室を我らのために
貸すべしと申出でたり。
それよしと裁可したれば、
明後日妻は京子と
六畳のこの一室に
新家庭作り上ぐべし。
願くは心休めよ。
その節に、我
君達の好意、残らず
せつ子より聞き候ひぬ。
焼跡の丸井の坂を
荷車にぶらさがりつつ、
(ここに又南瓜こそあれ、)
停車場に急ぎゆきけん
君達の姿思ひて
ふき出しぬ。又其心
打忍び、涙流しぬ。
日高なるアイヌの君の
行先ぞ気にこそかかれ。
ひょろひょろの
事問へど更にわからず。
四日前に出しやりたる
我が手紙、未だもどらず
返事来ず。今の所は
一向に
アノ人の事にしあれば、
何処へか
とはいへど、どうも何だか
気にかかり、たより待たるる。
北の方旭川なる
丈高き見習士官
遠からず演習のため
札幌に来るといふなる
たより来ぬ。豚鍋つつき
語らむと、これも待たるる。
待たるるはこれのみならず、
願くは兄弟達よ
手紙
函館のたよりなき日は
何となく唯我一人
荒れし野に追放されし
思ひして、心クサクサ、
猫の糞
猫の糞
鼻下の髯、二
物いへば、いつも滅茶苦茶、
今も
実際は可哀相だよ。
札幌は静けき都、
秋の日のいと温かに
我が心、ふと
筆とりて書きたる
見よやこの五七の調よ、
其昔、髯のホメロス
イリヤドを書きし如くに
すらすらと書きこそしたれ。
札幌は静けき都、夢に来よかし。
反歌
白村が第二の
泣くらむか聞かまほしくも。
なつかしき我が
文かけ、よしや
北の子は
我が
うつらうつら時すぎゆきて隣室の
時計二時うつ、いざ出社せむ。
四十年九月二十三日
札幌にて 啄木拝
並木兄 御侍史
無題
一年ばかりの間、いや一と月でも
一週間でも、三日でもいい。
神よ、もしあるなら、ああ、神よ、
私の願ひはこれだけだ。どうか、
ああ! どうか……
真白な、
身体がフウワリと何処までも――
安心の谷の底までも沈んでゆく様な
養老院の古畳の上でもいい、
何も考へずに(そのまま死んでも
惜しくはない)ゆっくりと寝てみたい!
手足を誰か来て盗んで行っても
知らずにゐる程ゆっくり寝てみたい!
どうだらう! その気持は! ああ。
想像するだけでも眠くなるやうだ! 今
この著物を――重い、重いこの責任の著物を
脱ぎ
私のこの身体が水素のやうに
ふうわりと軽くなって、
高い高い大空へ飛んでゆくかも知れない――「
下ではみんながさう言ふかも知れない! ああ!
――――――――――――――
死だ! 死だ! 私の願ひはこれ
たった一つだ! ああ!
あ、あ、ほんとに殺すのか? 待ってくれ、
ありがたい神様、あ、ちょっと!
ほんの少し、パンを買ふだけだ、五―五―五―銭でもいい!
殺すくらゐのお
新らしき都の基礎
やがて世界の
その下にあらゆる都府が
『新らしき都』はいづこに建つべきか?
滅びたる歴史の上にか? 思考と愛の上にか? 否、否。
土の上に。然り、土の上に、何の――夫婦と云ふ
定まりも区別もなき空気の中に
果て知れぬ
夏の街の恐怖
焼けつくやうな夏の日の下に
おびえてぎらつく
母親の居
ちょこちょこと電車線路へ歩いて行く。
八百屋の店には
病院の窓の
耳の長い白犬が寝そべり、
すベて、限りもない明るさの中に
どこともなく、
病身の氷屋の女房が岡持を持ち、
骨折れた
横町の下宿から出て進み来る、
夏の恐怖に物言はぬ
それを見て辻の巡査は出かかった
白犬は思ふさまのびをして、
起きるな
西日をうけて熱くなった
まだ味気ない
正体もなく考へに疲れきって、
汗を流し、いびきをかいて昼寝してゐる
まだ若い男の口からは黄色い歯が見え、
硝子越しの夏の日が
その上に
起きるな、超きるな、日の暮れるまで。
そなたの一生に冷しい静かな夕ぐれの来るまで。
何処かで
事ありげな春の夕暮
遠い国には
海には難破船の上の
質屋の店には
うす暗がりに
何か事ありげな――
春の夕暮の町を圧する
重く
仕事の手につかぬ一日が暮れて、
何に疲れたとも知れぬ疲れがある。
遠い国には沢山の人が死に……
また政庁に
海には
あ、
大工の妻が
騎馬の巡査
絶間なく目を配って、立ってゐる
見すぼらしい銅像のやうな――。
白痴の小僧は馬の腹をすばしこく
荷を積み重ねた赤い自動車が
その鼻先を行く。
数ある往来の人の中には
子供の手を
ふと
おのが夫の勤労を思ふ。
あ、犬が電車に
ぞろぞろと人が集る。
巡査も馬を進める……
はてしなき議論の後(一)
暗き、暗き
わが頭脳の中に、
時として、
革命の思想はひらめけども――
あはれ、あはれ、
かの
我は知る、
その電に照し出さるる
新しき世界の姿を。
されど、そは常に一瞬にして消え去るなり、
しかして、この壮快なる雷鳴は遂に聞え来らず。
暗き、暗き曠野にも似たる
わが頭脳の中に
時として、電のほとばしる如く、
革命の思想はひらめけども――
はてしなき議論の後(二)
われらの
しかしてわれらの眼の輝けること、
五十年前の
われらは何を
されど、誰一人、握りしめたる
‘
われらはわれらの求むるものの何なるかを知る、
また、民衆の求むるものの何なるかを知る、
しかして、我等の何を為すべきかを知る。
実に五十年前の露西亜の青年よりも多く知れり。
されど、誰一人、握りしめたる拳に卓をたたきて、
‘V NAROD !’と叫び出づるものなし。
常に世に新らしきものを作り出だす青年なり。
われらは老人の早く死に、しかしてわれらの
見よ、われらの眼の輝けるを、またその議論の激しきを。
されど、誰一人、握りしめたる拳に卓をたたきて、
‘V NAROD !’と叫び出づるものなし。
ああ、
若き婦人の熱心に変りはなけれど、
その眼には、はてしなき議論の後の疲れあり。
されど、なほ、誰一人、握りしめたる拳に卓をたたきて、
‘V NAROD !’と叫び出づるものなし。
ココアのひと
われは知る、テロリストの
かなしき心を――
言葉とおこなひとを分ちがたき
ただひとつの心を、
おこなひをもて語らんとする心を、
われとわがからだを敵に
しかして、そは真面目にして熱心なる人の常に
はてしなき議論の後の
そのうすにがき
われは知る、テロリストの
かなしき、かなしき心を。
書斎の午後
われはこの国の女を好まず。
読みさしの舶来の本の
手ざはりあらき紙の上に、
あやまちて
なかなかに
われはこの国の女を好まず。
激論
われはかの夜の激論を忘るること
新らしき社会に
はしなくも、同志の一人なる若き経済学者Nと
我との間に
かの五時間に
「君の言ふ所は徹頭徹尾
かれは
その声はさながら
かれの手は恐らくわが
われはその浅黒き、大いなる顔の
男らしき怒りに
五月の夜はすでに一時なりき。
Nとわれとの間なる
病みあがりの、しかして快く熱したるわが
雨をふくめる夜風の
さてわれは、また、かの夜の、
われらの会合に常にただ一人の婦人なる
Kのしなやかなる手の
ほつれ毛をかき上ぐるとき、
また、蝋燭の
そは幾度かわが眼の前に光りたり。
しかして、そは実にNの贈れる約婚のしるしなりき。
されど、かの夜のわれらの議論に於いては、
かの
墓碑銘
われは常にかれを尊敬せりき、
しかして今も
かの郊外の墓地の
かれを
すでにふた月は過ぎ去りたり。
かれは議論家にてはなかりしかど、
なくてかなはぬ一人なりしが。
或る時、彼の語りけるは、
「同志よ、われの無言をとがむることなかれ。
われは議論すること
されど、我には
「彼の眼は常に論者の
同志の一人はかくかれを評しき。
しかして、今や再びその眼より正義の叱責をうくることなし。
かれは労働者――一個の機械職工なりき。
かれは常に熱心に、
かれは
かれの
かのジュラの山地のバクウニンが友を忍ばしめたり。
かれは
なほよく死にいたるまで
「今日は五月一日なり、われらの日なり。」
これ、かれのわれに
この日の
その日の
ああ、かの広き
しかして、また、かの生を恐れざりしごとく
死を恐れざりし、常に直視する眼と、
彼の
かの栗の木の下に葬られたり。
われら同志の撰びたる
「われは
古びたる鞄をあけて
わが友は、古びたる
ほの暗き
いろいろの本を取り出だしたり。
そは皆この国にて禁じられたるものなりき。
やがて、わが友は一葉の写真を探しあてて、
「これなり」とわが手に置くや、
静かにまた窓に
そは美くしとにもあらぬ若き女の写真なりき。
げに、かの場末の
げに、かの場末の縁日の夜の
活動写真の小屋の中に、
青
鋭くも響きわたりし
秋の夜の呼子の笛はかなしかりしかな。
ひょろろろと鳴りて消ゆれば、
あたり
薄青きいたづら小僧の映画ぞわが眼にはうつりたる。
やがて、また、ひょろろと鳴れば、
声
西洋の
くどくどと何事を語り出でけれ。
我はただ涙ぐまれき。
されど、そは、
はてしなき議論の後の疲れたる心を抱き、
同志の中の
ただひとり、雨の夜の町を帰り来れば、
ゆくりなく、かの呼子の笛が思ひ出されたり。
――ひょろろろと、
また、ひょろろろと――
我は、ふと、涙ぐまれぬ。
げに、げに、わが心の
今も
わが友は、今日も
我が友は、今日もまた、
マルクスの「
難解になやみつつあるならむ。
わが身のまはりには、
黄色なる小さき
ほろほろと散るごときけはひあり。
もう三十にもなるといふ、
身の
赤き
あれはいつのことなりけむ。
それはさうと、あの女は――
ただ一度我等の会合に出て
それきり来なくなりし――
あの女は、
今はどうしてゐるらむ。
明るき午後のものとなき
家
今朝も、ふと、目のさめしとき、
わが家と呼ぶべき家の欲しくなりて、
顔洗ふ間もそのことをそこはかとなく思ひしが、
つとめ先より一日の仕事を
むらさきの煙の味のなつかしさ、
はかなくもまたそのことのひょっと心に浮び来る――
はかなくもまたかなしくも。
場所は、鉄道に遠からぬ、
心おきなき故郷の村のはづれに選びてむ。
西洋風の木造のさっぱりとしたひと
高からずとも、さてはまた何の飾りのなしとても、
広き階段とバルコンと明るき書斎……
げにさなり、すわり心地のよき
この幾年に幾度も思ひしはこの家のこと、
思ひし
心のうちに
ランプの
その家に住むたのしさのまざまざ見ゆる心地して、
泣く児に
そを幸ひと口もとにはかなき笑みものぼり来る。
さて、その庭は広くして草の繁るにまかせてむ。
夏ともなれば、夏の雨、おのがじしなる草の葉に
音立てて降るこころよさ。
またその隅にひともとの大樹を植ゑて、
白塗の木の腰掛を根に置かむ――
雨降らぬ日は
かの煙
四五日おきに送り来る丸善よりの新刊の
本の
食事の知らせあるまでをうつらうつらと過ごすべく、
また、ことごとにつぶらなる眼を見ひらきて聞きほるる
村の子供を集めては、いろいろの話聞かすべく……
はかなくも、またかなしくも、
いつとしもなく、若き日にわかれ来りて、
月月のくらしのことに疲れゆく、
都市居住者のいそがしき心に一度浮びては、
はかなくも、またかなしくも
なつかしくして、
そのかずかずの満たされぬ望みと共に、
はじめより空しきことと知りながら、
なほ、若き日に人知れず恋せしときの眼付して、
妻にも告げず、真白なるランプの笠を見つめつつ、
ひとりひそかに、熱心に、心のうちに思ひつづくる。
飛行機
見よ、今日も、かの
飛行機の高く飛べるを。
給仕づとめの少年が
たまに非番の日曜日、
肺病やみの母親とたった二人の家にゐて、
ひとりせっせとリイダアの独学をする眼の疲れ……
見よ、今日も、かの蒼空に
飛行機の高く飛べるを。
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